「人生タクシー」
ひさしぶりに映画館に映画を見に行きました。
どういう映画なのか、ひとことでいいあらわすのが難しいです。でもとてもよかったです。
タクシーの車載カメラになにげなく映し出される人生の悲喜こもごも。
ドキュメンタリーのような、それにしてはあまりに緻密に構成されていて完成度が高すぎるから、やっぱりフィクションのような。
イラン当局から映画撮影を禁止された監督が、監視の目をかいくぐってタクシー運転手になって撮ったというシリアスな映画なはずなのに、人々の日常がユーモラスに描かれていて、だけどそこにところどころ強盗とか逮捕とかシリアスなテーマが顔を出すので、いちいち笑っちゃいけないのか笑っていいのかわからない宙ぶらりんな感じに。
イランでは言論や表現の弾圧が行われていて、ジャファル・パナヒ監督は、実際にイランでの映画撮影を禁じられ、過去に逮捕されたこともあり、厳しい状況で生半可な気持ちでこの映画を作ったわけではないでしょう。映画の中でも、とある女性がバレーボールの試合を見に行っただけで逮捕されるエピソードが出てきます。
でも、映画の中の監督の微笑みはすばらしい。映画にあふれるユーモアの感覚もまた、すべてを笑ってしまう最強の武器となっているし、受け手の心に大切なテーマがすっと入りやすくするために重要な役割を果たしています。
そう、ユーモアや笑顔を武器に。
公式サイトにある監督のコメントが素晴らしいので紹介します。
私は映画作家だ。
映画を作る以外のことは何も出来ない。
映画こそが私の表現であり、人生の意味だ。
何者も私が映画を作るのを止める事は出来ない。
何故なら最悪の窮地に追いやられる時、
私は内なる自己へと沈潜し、そのプライベートな空間で、
創作する事の必然性はほとんど衝動にまで高められるからだー
あらゆる制約を物ともせず、
芸術としての映画は私の第一の任務だ。
だから私はどんな状況でも映画を作り続け、そうする事で敬意を表明し、
生きている実感を得るのだ。
ジャファル・パナヒ